大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

富山地方裁判所高岡支部 昭和62年(ワ)93号 判決 1990年1月31日

原告 甲野花子

右訴訟代理人弁護士 山本毅

被告 株式会社ファーストレジャープロダクト

右代表者代表取締役 野澤圭介

右訴訟代理人弁護士 坂東克彦

被告 株式会社サントリー・ショッピング・クラブ

右代表者代表取締役 泉道男

右訴訟代理人弁護士 木村英三郎

右被告補助参加人 株式会社 マークマスター

右代表者代表取締役 和田隆彦

右被告補助参加人 安田火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役 後藤康男

右二名訴訟代理人弁護士 伊集院功

同 赤松俊武

右被告補助参加人 株式会社 服部セイコー

右代表者代表取締役 吉村司郎

右訴訟代理人弁護士 堤淳一

同 安田彪

同 石田茂

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用及び補助参加によって生じた費用は、いずれも原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、連帯して金二六三三万三三二七円及びこれに対する昭和六二年五月二四日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

(一) 発生日時 昭和六一年一月一日午後九時一〇分頃

(二) 発生場所

新潟県中頸城郡妙高高原町池の平二四五二番地池の平三ツ山第一ゲレンデ(以下「第一ゲレンデ」という)

(三) 事故の態様

当時ナイターが行われていた右ゲレンデで、原告が被告株式会社ファーストレジャープロダクト(以下「被告ファースト」という)の設置していた第一リフトに乗車して上がり、第一ゲレンデを被告株式会社サントリー・ショッピング・クラブ(以下「被告サントリー」という)から購入したそり(HAMAXスノーカート五〇五、以下「本件そり」という)に乗って途中まで滑走していたところ、突然、夜間照明が消されて真っ暗となり、原告は急いで本件そりのブレーキを引いたがブレーキが全く効かなかったため、第一リフトB線の第九号鉄塔に衝突した。

2  原告の受傷

原告は、本件事故により、右肩甲骨骨折、右第六、七、八肋骨骨折、腰部骨盤打撲、脳挫傷、頭蓋内出血、顔面、両下腿挫創の傷害を受け、昭和六一年一月一日から同月一五日まで新潟県新井市美守一丁目一二番九号平出外科医院に入院し、同月一五日から同年二月一三日まで、富山県高岡市城東一丁目一番八号市堰整形外科病院に入院し、その後同病院に同年五月二六日まで通院した(通院実日数二三日)が、左顔面頬部に長さ四・五センチメートルの横走する醜痕が残った。

3  責任原因

(一) 被告ファーストの債務不履行責任

被告ファーストは、第一ゲレンデにリフトを架設し、右スキー場のスキー客の運搬を行い、右スキー場の管理、営業を行っているものであるが、利用客との間のスキー場利用契約に基づき、利用客に対する安全配慮義務があり、夜間照明を消灯する場合にはゲレンデ内に利用客がいないことを確認しなければならず、また、リフトの鉄塔には衝突を防止する適切な措置を講じ、少なくとも衝突の際の衝撃緩和のためのラバー等を巻くなどしなければならないのにこれを怠り、原告がゲレンデ内にいたのに照明を消灯し、かつ、前記第九号鉄塔にも何らの防護措置を取っていなかったため、本件事故が発生した。

(二) 被告ファーストの不法行為責任

本件事故は、被告ファーストの従業員のゲレンデ内の利用客の確認を怠って夜間照明を消灯する過失により起こったもので、被告ファーストは、右従業員の使用者として責任を負う。

また、被告ファーストは、リフトの鉄塔には衝突を防止する適切な措置を講じ、少なくとも衝突の際の衝撃緩和の為のラバー等を巻くなどして危険を未然に防ぐ措置を講ずるべき管理上の責任があったのに、前記第九号鉄塔には何らの防護措置を取っていなかったため、本件事故が発生したもので、右は、被告ファーストの占有する前記第九号鉄塔の設置、保存に瑕疵があったというべきである。

(三) 被告サントリーの債務不履行責任

被告サントリーは、一般消費者を対象として通信販売を行っている会社であって、その販売する商品についてはその安全性を確認して販売する債務を負っており、また、前記そりの販売に際し、本件そりのブレーキ性能には限界があり、危険な場合には足を使って停止する等の必要があることを説明すべき義務があるのにこれを怠り、かえって、「ハンドルとブレーキ操作で自由自在に動かせる待望のスノーカート」「安定性・安全性には万全の配慮がなされていますから、お子さまから、おとなまで、ゴーカートスキーの醍醐味が満喫できます。」と表示し、あたかもどのような場合にもブレーキ操作だけで安全に停止できるかの如き過大な広告をして販売した結果本件事故を惹起させたものであるから、原告の被った損害を賠償する責任がある。

(四) 被告サントリーの不法行為責任

被告サントリーは、故意または過失により、ブレーキの効かない安全性を欠く本件そりを前記のとおりの安全であるかのような広告をして販売し、その結果、本件事故が発生したのであるから、不法行為に基づき、原告の被った損害を賠償する責任がある。

4  損害

(一) 治療費 金二四万九七七〇円

(1) 平出外科医院 金一五万五三一〇円

(2) 市堰整形外科病院 金九万四四六〇円

(二) 付添い費用 金二二万五六一〇円

(1) 平出外科医院入院中、職業付添婦に付添を依頼し、看護料一〇万五六一〇円を支払った。

(2) 市堰整形外科病院に入院中の三〇日間は、親戚、社員が交替で原告の付添を行った。右期間の付添費用は一日あたり四〇〇〇円の合計一二万円が相当である。

(三) 入院雑費 金一九万五〇〇〇円

原告は、前記入院期間中(通算四四日間)の入院雑費として金一九万五〇〇〇円を支出した。

(四) 交通費、宿泊費 金一六万円

(1) 近親者、社員の新井市への交通費、宿泊費 金一五万円

原告が、平出外科医院入院中、原告の夫が三回、原告の父母及び子供が一回、社員が四回(延べ人数一〇人)、いずれも原告の付添いと見舞いのため高岡市から新井市の平出外科医院へ通った。

右交通費は、一回一人当たり一万円、また遠方のため宿泊を要したが、宿泊費は一回一人当たり五〇〇〇円を下らないから、右交通費と宿泊費の合計は、金一五万円である。

(2) 原告の搬送費用 金一万円

昭和六一年一月一五日に原告を平出外科医院から市堰整形外科病院まで搬送したが、その費用に一万円を要した。

(五) 慰謝料 金三五〇万円

(1) 入通院慰謝料 金一一〇万円

(2) 後遺症慰謝料 金二四〇万円

原告は、本件事故により前記のとおりの後遺症が残ったが、右は、後遺障害別等級表の一二級一四号に該当するので、これによる慰謝料としては金二四〇万円が相当である。

(六) 休業損害 金五〇〇万円

原告は、化粧品の販売を業とする株式会社三美創の代表取締役であり、本件事故による入通院のため、昭和六一年一月から五月まで全く稼働することができず、その間の給与相当額五〇〇万円の支払を受けることができなかった。

(七) 逸失利益 金一四六〇万二九四七円

原告は、右会社の販売の第一線に立っていたところ、顔面に醜痕が残ったことで会社の売上に悪影響があり、原告はこれを克服するためこれまで以上の努力を重ねることにより、漸く売上を確保している状態である。

よって、本件事故による原告の喪失利益率は、後遺障害別等級表の労働能力喪失率の一二級に該当する一四パーセントを下回らない。

原告の昭和六一年度の給与収入金額は二三九〇万円であり、少なくとも五年間は影響があることを考慮し、その間の逸失利益の現価を新ホフマン方式により算出すると金一四六〇万二九四七円となる。

(八) 弁護士費用 金二四〇万円

よって、原告は、被告らに対し、連帯して、右損害賠償金合計二六三三万三三二七円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和六二年五月二四日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  被告ファースト

(一)(1) 請求原因1(一)、(二)の事実は認める。

(2) 同1(三)の事実のうち、原告が第一リフトB線第九号鉄塔に衝突したことは認める。突然、夜間照明が消されて真っ暗になったことは否認する。その余の事実は知らない。

照明灯の点灯スイッチは、第一ゲレンデ上半分のスイッチは現在は廃止されている第二リフト乗り場のステージに、下半分及びカラーシャドウのスイッチは、第一リフトA線乗り場の管理事務所内にあり、上半分の照明は、右A線降り場にいる監視員が消灯することになっていたところ、本件事故当日、右監視員は、原告らが滑り始めたのち、最終パトロールがゲレンデ内の巡回をしながらゲレンデの半分辺りにさしかかった時点でゲレンデ上半分に人のいないことを確認して消灯したものであるから、本件事故当時、夜間照明は点灯していた。

(二) 同2の事実は知らない。

(三) 同3(一)、(二)の事実のうち、被告ファーストが、前記三ツ山スキー場第一ゲレンデにリフトを架設し、右スキー場のスキー客の運搬を行い、右スキー場の管理、営業を行っているものであること及び第九号鉄塔に防護マット等を巻いていなかったことは認める。その余は争う。

本件事故は、原告がそりのスピードコントロールを失った結果発生したもので、仮に本件事故当時、照明が消されていたとしても既にコントロールを失った状態にあったのであるから、照明の消灯と本件事故との間には因果関係はない。

また、第一ゲレンデは平均斜度約一〇度の比較的平滑平坦な斜面で、滑走者にとって危険な箇所はなく、第九号鉄塔は、はるか前方より目視できる位置にあるうえ、第一ゲレンデは、三〇~五〇メートル幅で圧雪整備されているが、ゲレンデとリフト支柱とのあいだは一定幅で非圧雪エリアが残されており、過去スキーヤーがリフト支柱に衝突した事故もなかったのであるから、第一リフトB線第九号鉄塔に防護マットの取付けは必要ない。

(四) 同4の事実は知らない。

2  被告サントリー

(一) 請求原因1の事実は知らない。但し、被告サントリーが、原告の夫にハマックススノーカート五〇五一を二台売ったことは認める。

(二) 同2の事実は知らない。

(三)(1) 同3(三)の事実のうち、被告サントリーが、一般消費者を対象として通信販売を行っている会社であることは認める。その余は争う。

(2) 同3(四)は争う。

本件スノーカートは、そりとしての通常の操縦性を備えており、安全であり、欠陥はない。本件事故の原因は、被告ファーストが、原告らがゲレンデで滑降中であるにも係わらず、照明を消したことにある。

本件事故と被告サントリーの広告との間には因果関係がない。すなわち、広告である以上多少の誇張はやむを得ないばかりでなく、広告は、購入の動機にはなりえても、広告文句を頭に浮かべながら滑走するわけではないから事故の原因にはなりえない。

(四) 同4は知らない。

第三証拠《省略》

理由

一  本件事故の発生

《証拠省略》によれば、原告が、当時ナイターが行われていた新潟県中頸城郡妙高高原町池の平二四五二番地池の平三ツ山第一ゲレンデで、被告ファーストの設置していた第一リフトA線に乗車して上がり、第一ゲレンデを被告サントリーから購入した本件そりに乗って途中まで滑走していたところ、昭和六一年一月一日午後九時一〇分頃、第一リフトB線の第九号鉄塔に衝突したことが認められ(本件事故の発生日時、場所については、原告と被告ファーストとの間において争いがない)、右認定に反する証拠はない。

二  原告の受傷

《証拠省略》によれば、原告は、本件事故により、右肩甲骨骨折、右第六、七、八肋骨骨折、腰部骨盤打撲、脳挫傷、頭蓋内出血、顔面、両下腿挫創の傷害を受け、昭和六一年一月一日から同月一五日まで新潟県新井市美守一丁目一二番九号平出外科医院に入院し、同月一五日から同年二月一三日まで、富山県高岡市城東一丁目一番八号市堰整形外科病院に入院し、その後同病院に同年五月二六日まで通院した(通院実日数二三日)が、左顔面頬部に長さ四・五センチメートルの横走する醜痕が残ったことが認められ、これに反する証拠はない。

三  責任原因

1  請求原因3(一)の事実のうち、被告ファーストが、第一ゲレンデにリフトを架設し、右スキー場のスキー客の運搬を行い、右スキー場の管理、営業を行っているものであることは当事者(原告と被告ファースト)間に争いがない。

ところで、原告は、被告ファーストはゲレンデ内に利用客がいないことを確認して夜間照明を消灯しなければならないのに、これを怠り、原告が未だゲレンデ内で滑走しているのに消灯したため、原告は、鉄塔を確認することができず、本件事故にあったものであると主張する。

《証拠省略》によれば、(1)被告ファーストは、本件事故当時、第一ゲレンデのリフトのすぐ外側に沿ってナイター照明設備(合計八灯)を設け、さらに、第一リフト乗り場付近にはカラーシャドウと呼ぶ特別の照明灯を設置して、ナイター営業を行っていたが、右ナイター照明の点滅スイッチは、上下に分けて設置されており、上半分の照明分については現在廃止されている三ツ山第二リフト乗り場にあった監視小屋(第一リフトA線降り場の上部にあった)の中にあり、下半分の照明分とカラーシャドウについては、第一リフトA線乗り場にあった管理事務所内にあったこと、(2)第一リフトB線の支柱(鉄塔)は、全部で一五本あり、第九号鉄塔は下から数えて九番目の鉄塔で、第一ゲレンデの中間よりやや上部に設けられ、第一リフトA線の降り場は、第一リフトB線の第一四号鉄塔付近にあり、右降り場付近に最上部の照明灯が設置され、上から数えて四番目の照明灯は、B線第九号鉄塔と第八号鉄塔との中間にあって、上半分の照明が消された場合、第九号鉄塔付近は暗くなること、(3)第一ゲレンデは、比較的平坦な斜面であり、第一リフトA線降り場からゲレンデに出たスキーヤーが通常滑走を開始する地点から一部(B線第九号鉄塔南西方向上部の少し盛り上がった部分の下側)を除いて全体が見回せること、(4)本件事故当日のナイターの営業時間は午後九時までであり、原告とその夫甲野太郎は、午後九時少し前頃、本件そり及び同じ型のそりを持って第一リフトA線に乗り第一ゲレンデ上部まで行き、先ず、太郎がそりで滑り始め、五秒位して原告が滑り出したこと、(5)当日の第一リフトの最終乗客(ラストランナー)は午後九時一分に乗車して上がって行き、その後間もなく戸井田賢外一名が最終パトロールとして第一リフトに乗車して上がって行ったこと、(6)当日、第一リフト降り場の監視小屋の中で監視業務についていた秋葉等は、最終パトロールが上がってくる少し前くらいに、原告らが本件そりに跨がっているのを目撃し、その後、最終パトロールがリフトから降りて第一ゲレンデの方に出て行った後、小屋の中のストーブを消して、火が消えたのを確認して第一ゲレンデに出て行き、真下の方を見回して第一ゲレンデの上半分に客がいないことを確認したうえで歩いて前記上半分の点滅スイッチのところまで行き、スイッチを切ったこと、(7)戸井田ら最終パトロールは、ゲレンデ内に人が残っていないかどうかを確認しつつスキーで蛇行しながらゆっくりと滑り降りてきていたところ、第九号鉄塔を過ぎて第一ゲレンデの中間付近まで来た時背後(上半分)の照明が消えたが、照明が消えるまでその後方に客がいることは確認しておらず、前方にもリフトの乗り場付近辺りにスキーヤーが数名ぱらぱらといるのが確認できたのみであったこと、(8)原告が事故に遭ったことは、他の客が被告ファーストの従業員に通報したことから分かり、甲野太郎がゲレンデ下に到着して後しばらくして、最終パトロールがゲレンデ下に到着する直前に被告ファーストの従業員らが救助に向かったものであり、右従業員らは、客の通報で、原告はリフトの鉄塔付近にいるということで、下からリフト沿いにリフトの鉄塔の回りを確認しながら上に登って行ったことが認められ(る。)《証拠判断省略》

そうすると、確かに、本件事故当日、第一ゲレンデの上半分の照明は未だ最終パトロールがゲレンデ内を走行している途中に消灯されているが、秋葉が消灯の前にゲレンデに出て真下を見回した時にはその視界内に原告らは既にいなかったこと、最終パトロールは、当日最後にリフトに乗りゲレンデを確認しながら滑り、消灯された際には、既に第九号鉄塔の横を通過し、ゲレンデの中間付近に達していたのであるから、第一ゲレンデの状況からして消灯されるまでに原告らが第九号鉄塔より上部のゲレンデで滑っていれば、当然に発見しているはずであるのに、原告らの姿を発見していないこと、原告らは、最終パトロールよりも前に出発し、途中最終パトロールに追い抜かれておらず、現に、甲野太郎は最終パトロールよりも前にゲレンデ下に到達しており、原告らは、常に最終パトロールの前を滑走していたものであるから、そのまま滑走していれば消灯当時既に第九号鉄塔を通過していたはずであること、さらに、原告が本件事故に遭ってリフトの鉄塔付近に倒れていることは他の客に発見されているところ、最終パトロールが第九号鉄塔付近を通過する際には、既に他の客はその付近にいなかったのであるから、最終パトロールが右地点に到達する以前に発見されたと考えられることからすると、本件事故発生の時まで照明は消灯されていなかったものといわざるを得ない。

なお、原告本人尋問の結果(第一、二回)中には、鉄塔に衝突する前に暗くなったという趣旨の部分があるが、原告本人尋問の結果(第一回)中にはまた、「高くなる直前にコース先のカクテルライト等の見えない所があった。その後目の前が暗くなってからの記憶は全くない。前方の状態が視界から消えた。何故真っ暗になったかはその時は分からなかった。」旨述べて、原告は暗くなる前から本件そりの操縦性と方向性を失い、高い所に上がってからは恐怖感から目の前を見ることができなくなったと窺える部分があり、右原告本人尋問の結果をもってしても消灯された後に本件事故が発生したと認めることができない。次に、証人甲野太郎の証言中には、同人がゲレンデを四分の一ぐらい降りてきたところで急にカラーシャドウを除いてゲレンデ全体の照明が消えて真っ暗になったとの部分があるが、右証言部分は前記認定の事実に照らし、にわかに措信することができず、他に被告ファーストがナイター照明を消灯したことによって本件事故の発生した、すなわち、ナイター照明の消灯と本件事故との間に因果関係があると認めるに足りる証拠はない。

2  次に、原告は、第九号鉄塔に防護マット等を巻いていなかったことが、被告ファーストの安全配慮義務違反であり、また、工作物設置管理の瑕疵に当たると主張するところ、被告ファーストが第九号鉄塔に防護マット等を巻いていなかったことは、当事者間(原告と被告ファースト)で争いがないので、この点が安全配慮義務に違反し、また、工作物の設置管理の瑕疵といえるか否かについて判断する。

《証拠省略》によれば、第一ゲレンデは平均斜度約一〇度の比較的平坦な斜面で、リフトの支柱は、ゲレンデの下から見て右端に設けられており、第九号鉄塔と第一〇号鉄塔との間に少し小高い箇所があって自然に滑っていけば第九号鉄塔の方に行くような傾斜にはなっているものの、なだらかな傾斜(本件事故後盛土したのちの斜度で一四度)であり、第九号鉄塔は、はるか前方より目視できる位置にあるうえ、第一ゲレンデは、三〇~五〇メートル幅で圧雪整備され、ゲレンデとリフト支柱との間は一定幅(検証時においては約六メートル間隔)で非圧雪エリアが残されており、深雪状態の滑走を試みる一部のスキーヤーが時折は入り込むものの、通常の滑走コースではなく、過去スキーヤーがリフト支柱に衝突した事故もなかったことが認められる。

ところで、スキー場の設置者としては、通常予想される事故を未然に防止すべき義務があり、衝突が予想される場所に工作物を設置しなければならないときには防護用のマットを巻くなど予想される危険を回避する措置を講じなければならず、右措置を怠る時は、利用客に対する安全配慮を欠き、右工作物には瑕疵が存するといえる。

しかしながら、スキーやそりは、自然の地形を利用して滑走するスポーツないし遊びであり、滑走すること自体種々の危険を伴うものであるから、ゲレンデを滑走する者としては、右危険を回避するためには自らの技量および用具の性能に応じてコースを選択したうえ、スピードをコントロールして滑走し、コントロールを失った場合には自ら転倒するなどして危険を未然に回避しなければならないのであって、ゲレンデの設置者としては、滑走者が右の危険回避行動をとることを前提として施設等を設置し、安全を配慮すれば足りるものといえる。本件の場合、右認定の事実のとおり、第九号鉄塔は、ゲレンデの端に通常の滑走コースと区分された場所に設置され、その周囲及び上方斜面は比較的なだらかであり、上方から第九号鉄塔は十分に見通せたのであるから、滑走者は、右鉄塔にぶつからないように滑走コースをとるのが通常であり、また、仮にその上方でコントロールを失って右鉄塔方向に流されても転倒するなどすれば容易に衝突を避けることができる状況にあったと認めることができ、滑走者が前記危険回避行動をとっているかぎり、衝突の危険性は無かったものと認定し得る。

したがって、被告ファーストが第九号鉄塔に防護マット等を巻いていなかったことをもって、利用客に対する安全配慮を欠き、また、工作物の設置、管理に瑕疵があったと認めることはできない。

《証拠省略》によれば、原告は、ゲレンデの左側、リフトの鉄塔近くを滑走コースとして選択したうえ、滑り始めてすぐにコントロールを失った状況になったのに、本件そりに装置されていたブレーキを引いたのみで、足を雪面につけて制動するとか転倒して止まる等の措置をとらず、コントロールを失ったまま滑走して本件事故となったことが認められ、結局、本件事故は、原告の滑走コースの選択とそりの操作の誤りによって起こったものと認められる。

3  ついで、被告サントリーの債務不履行責任及び不法行為責任について検討する。

被告サントリーが、一般消費者を対象として通信販売を行っている会社であることは、当事者(原告と被告サントリー)間で争いがなく、《証拠省略》によれば、被告サントリーは、本件そりの販売に際して「ハンドルとブレーキ操作で自由自在に動かせる、待望のスノーカート」「ゲレンデでの遊びがまた面白くなりました。」「安定性・安全性には万全の配慮がなされていますから、お子さまから、おとなまで、ゴーカートスキーの醍醐味が満喫できます。」と表示して販売していたこと、本件そりはブレーキ付きであったとはいえ、二本の金属性の爪が数センチメートル雪面に刺さるだけの簡単な構造のものであったことが認められ、また、《証拠省略》によれば、本件事故の際、本件そりのブレーキを力一杯引いても全く効かなかったことが認められる。

しかしながら、《証拠省略》によっても、本件そりは、競技などに使用するものではなく、ゲレンデで使用する遊具として販売されていたことが認められ、《証拠省略》によれば、原告らもゲレンデでスキーの合間に遊ぶために本件そりを購入したことが認められる。そうとすると、本件そりのような遊具用のそりは、スキーのような操縦性や制御性がなく、急斜面などの条件が悪い場所で使用するものでないから、単に操縦性や制御性が悪いことを以て安全性を欠くとはいえず、素材や構造上の欠陥があって、遊具用のそりが通常滑走するような緩斜面を滑っても破損したというような場合に初めて安全性を欠くと言えるところ、この点についての主張も立証もない。次に、本件そりは、外見からも、また、実際に使用してみればなおさら、どの程度の操縦性や制御性を有するかは容易に知ることができ、したがってまた、そのブレーキ性能には限界があり、危険な場合には足を使って停止するなどの必要があることも分かるものであるから、ことさら右の点について被告サントリーに説明義務があったと認めることができない。そして、確かに被告サントリーの前記広告文言は誇張されたものである点は否めないが、原告が前記広告文言を信じた結果本件事故が発生したと認めるに足りる証拠はない。

三  以上によれば、原告の各請求は、その余の主張を判断するまでもなく失当であるからいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を、補助参加により生じた費用の負担について同法九四条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中川隆司 裁判官 廣永伸行 大谷辰雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例